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新潟県小国町で採話した昔話「まつきちとやまんば」です。

小国の昔話 第三部/小国の昔話 data


まつきちとやまんば

山崎 正治

炉辺での昔語りむかしあるろこへまつきちという百姓があったてや。ある秋の天気のいい日に馬(ま)を連れて山へ大根取りへ行ったてや。その年あなじょんか(とても)大根が良くできて、いい大根がいっぺい取れたてや。晩方になったんだんが、家へ帰ろと思うて馬(ま)に大根いっぺい積んで、ホイホイと引いて帰ってきたと。
途中なかまで来ると、なんだやら人の呼ばる声がしるてんがね。「ドウドウ」と馬(ま)止めてじっと耳すましてみたろも何も聞こえねえ。「耳の故(せい)らろうかね」
そう思うて、また「シーッ」と馬(ま)を急がして歩(あい)び始めると、「オーイ、まつきちー、待ていやー。」
と確かに呼ばる声がしるてんがね。
「さあ、おおごった。今頃山奥で俺を呼ばるがんはやまんばに違えねえ。あっげながんにつかめられようんなかどうしょうもねえ、早く家へ行がんけやならん。」
そう思うて馬のつな引っ張ってドンドンドンドン歩(あえ)んだてや。だあろうもやまんばてや風に乗ってぼっかけて来るがだと。
「オーイ、まつきちー待てー。」
そういう呼ばる声がだんだん近くなって来るてんがの。まつきちあ待ってなんかいられるんじゃねえ。知らんふりしてドンドンドンドン歩(あえ)んだと。だあろも風に乗って追いかけて来るやまんばには叶うわけがねえ。とうとう追いつかれてしもうたてんがの。
まつきちと馬の前に空からドサッと下りたやまんばは、「まつきちー。待ててがんに何して待たねえ。」
と気びのわあるい声で言うがだと。まつきちあ、おっかなおっかなやまんばの面(つら)見ると、細い目がつり上がって、まっ赤な口が耳までさけて、しいろいなぁげい毛がバサーッと下がっておかっねい面(つら)らあったと。
「まあいいこてや。まつきちまあげな大根らーね。一本くれ。」
そう言うがだと。まつきちあおっかなくてどうしょうもねいんなんが、馬の背中から大根一本ひきぬいて、
「ハイとう。」
とさっだしたと。ほうしっとやまんばはその大根をちょこんとしったくって、
「ごっつおらねい、クシャクシャクシャ。」と食うて、
「もう一本くれ。」
また一本さっだすと、ちょこんとしったくって、クシャクシャクシャと食うて、
「もう一本くれ。」
と言うがだと。まつきちあ「こらきりがねい」と思うたんなんが、馬に積んだ大根いんなおろして、
「これいんなやるぜい。」
というと、やまんば、ニターッと笑うて、
「おお、ごっつおらねえ。」
と言うたかと思うと、こんだ両手で大根たがいて、クシャクシャクシャと食い出したてや。
まつきちあ、さあ今のうちに逃げねけやならね。そう思うて馬にピョンと飛び乗ると、パッパカ、パッパカ、パッパカ、パッパカと馬跳ばして逃げたてや。後へ残っだやまんばあ、山のようにあった大根をクシャクシャクシャとたちまち食いあげて、また風ん乗ってぼっかけたてんがのう。
「オーイ、まつきちー、待ていやー。」
まつきちあ馬のけつバシンバシンとたたいてドンドンドンドン逃げたろも、やっぱりやまんばには叶わない。またとうとう追いつかれてしもうたと。
「まつきちー、待ててがんに何して待たねい。まあいいこてや。さっきなごっつおらあったねい。まつきち、こっだその馬(ま)くれ。」
馬のイラストそう言うがだと。まつきちあ大事な大事な馬らし、可愛そうげれどうしょうもねいろも、断るわけにいがねんなんが、仕方なしに。
「ハイと。」
と馬の手綱をやまんばに渡したてや。
「おおごっつおらねい。こらあうまげだ。さて頭から先食おうかな、それともけつから先食おうかな。」
そう言いながらまっかななあげぃ舌(へら)出して、
「ペランペラン。」
と馬を甜(な)め出してんがの。さあこのうちに逃げねけや、こっだおれが食われる番だ。まつきちあそう思うて死ん物ぐるいで逃げたてや。
ハアハア息切らして逃げているうちに、どっかで道を間違うたげで、いっくら行っても村へ出ねえてんがね。そっでもドンドンドン行ぐと、森のかげに一軒の家があったてや。こらいいかった。ここへかくしてもらおう。そう思うてトントンと戸を叩いたろも、誰もいねいてんがね。戸を押したら「ギーッ」と開いたんなんが、
「後からあいまれやいよ、とにかく中へ入れてもらう。」
とう思うて中へ入ったてや。ほうしてどこへかくれようかとキョロキョロ見まわすと梯段(はしごだん)があったんなんが、トントントントンと二階へ上って見たら、押入れがあったんなんが、「こらあいいかった、こん中へかくれよう。」
そうして押入れん中へかくれてジッと息殺していたてや。
ちっとめると、外ヘバタバタと人の足音がしるてんがね。
「あ、ここの家の人が帰って来たげら。出て行ってあいまらんけやならねえ。」
と押入れの戸を開けようとしたら、
「ギーッ」
と戸を開けて、入って来たその人が、
「ああああ、今日あいい日らあったなあ。大根ぁいっぺい食うたし、馬もさっざ(十分)食うたし、だあろもあのまつきち逃がしてもったいなかったなあ。」
そう言う声がしるてんがねい。
「あっきゃあ、とんでもねい、こらやまんばの家らった。さあおおごっだ。どうか神様仏様助けてくらさい。」
手を合わせながらブルブルふれていたと。下じゃやまんばが、「さて腹もくっちゃなったすけ寝ようかな。どこへ寝ようかな。二階やへ上って寝ようかな。」
なんて言い出してんがね。
「さあおおごっだ。いよいよおれが食われる番だ、どうか神様仏様村の鎮守様助けてくらさあい。」
まつきちあ一心に祈ったてや。ほうしるとやまんばが、
「二階やへ上るがんめんどくさいすけ、釜ん中へ入って寝ようかな。」
そう言う声がしたんなんが、まつきちは、
「ああよかった助かった。」
と胸なぜおろしたてや。そのうちに下じゃ、ガタン、ゴトンと釜の蓋をしる音がしたかと思うとやまんばが釜ん中へ入って寝たげら。
「ゴウ、ゴウ。」
と物すごいいびきがし始めたと。
「ああよかった、この隙(きわ)に逃げよう。」
まつきちはそうっと押入れの戸を開けて出て、梯段(はしごだん)に一足下りると
「ミシッ。」
と音がしたと。ほうしっとやまんばのごうぎないびきが、「ピタン。」
と止むがだと。あ、気がついたかな、そう思うてジーッと息殺しているとまた、
「ゴウ、ゴウ。」
と大いびきが始まったんなんが、
「ああよかった。」
と思うてまたそうっと梯段に足を下すと、
「ミシッ。」
と音がしる。ほうしっといびきが、
「ピタン。」
と止まる。ジーッと息殺しているとまた、
「ゴウ、ゴウ。」
といびきが始まる。これをくり返してやっと下へおりて、「やれやれよかった。さあ逃げよう。」
と外へ出ようとしたろも、
「待てよ、このまんま逃げても、またいつかやまんばにつかめられる。おれの大事な大事な馬まで食われてしもうた。こらあ一つ仇討ちしてくれる。」
そう思いなおして外を見たら、でっけい石があったんなんが、その石を、
「ドッコイショ、ドツコイショ。」
と持って来て、やまんばが寝ている釜の蓋の上に、そうっと置いた。そうして「火焚きじる」からボヨ(柴)持って来て釜の下からドンドン燃やしたてや。
釜ん中でやまんば、
山崎正治「雨が降るやらなんだやら、いい気持ちらなあ、ゴウ、ゴウ。」
寝言ゆいながら、いいぐあいに寝てるてんがね。まつきちあ、ボヨの次にコロ(薪)を持って来てドンドンドンドン燃やしたと。
そのうちに釜ん中があっつくなってきたんなんが、
「アチチ、アチチ、こっじゃならん、こっじゃならん。」
中のやまんばあ大騒ぎして出ようとしたろも、蓋の上にはでっけい石がドーンとのしてあるんなんが出ることができねい。とうとうやまんばは釜ん中で焼け死んでしもうたてや。
これでいきがスポーンとさけた。


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